DRINK TRAVEL 2024 静岡研修vol.1 富士御殿場蒸溜所
静岡県御殿場市
こんにちは!アルバイトのりんです。
11月10日(日)は、エールハウスの店舗休みをいただき誠にありがとうございました。スタッフ+お客様 計10数名で、静岡のキリンディスティラリー富士御殿場蒸溜所・御殿場高原ビールの見学に行ってまいりました。ここではその様子を少しお伝えさせていただきます。
*私、先月入社したばかりの見習いアルバイトなのですが、もっとウイスキーとビールの勉強がしたい(というか…飲みたい!)という思いから、今回はありがたくも研修にご一緒させていただきました。そんなわけでいつもより素人目線のレポートですが、よろしくお願いします。店長・林さんの店舗ブログにより専門的なレポートも載っているのでそちらもご覧ください(^^)
午前11時ごろ、御殿場駅に到着。あいにくの曇り空に時折ポツポツと雨が降ってくるような空模様だったのですが、バスを降りた直後からひんやりとした空気に包まれ、御殿場の冷涼な気候を感じました。ロータリーの中心部には、御殿場蒸溜所の操業当初から製造に使われていたというポットスチルも設置されており、蒸留所に行く前からテンションが上がります。(ちなみに御殿場蒸溜所は昨年でなんと操業50周年…!)
シャトルバスに20分ほど揺られ、富士の麓 標高620mの地点に位置する蒸留所に到着。駅付近と比較してもかなり肌寒く感じます。聞くと平均気温13℃、湿度80%の1年中冷涼湿潤な場所だそう。この熟成に適した気候と、約50年もの年月をかけて濾過された伏流水の存在が、ここで唯一無二のウイスキーを生み出しているのです。
50年というと、単純に考えると蒸溜所の誕生と同時期に地表から染み込んだ雨水や雪解け水が、現在に至ってようやく蒸留所敷地内の井戸下の水脈にまで到達し、くみ上げられ、ウイスキーの仕込み水として利用されているということ。現地に降り立つと、蒸留所の歴史が富士と共にあるということが凄まじいリアリティを帯びて感じられました。
そして、そんな蒸留所が目指すのは「クリーン&エステリー」なウイスキーだといいます。どちらもウイスキーの表現として馴染みあるものでありながら、今回の蒸留所見学を通し、その言葉に非常に納得感を得られました。
蒸留所の大きな特徴は、モルトウイスキーとグレーンウイスキーの両方を製造しているということ。イギリスのシーバスブラザーズ社とアメリカのJEシーグラム、そしてキリンビールの3社が提携したことで国境を超えた技術共有が可能になり、富士の麓で世界でも珍しいウイスキーづくりが可能になったといいます。技術や原材料的な分類ではなく、あくまで味わいとして「富士御殿場蒸溜らしい」ウイスキーを追究されているようですね。
上は、グレーンウイスキー専用の仕込み釜。モルト窯とグレーン窯を分けることで、それぞれの良さを引き出した仕込みを行なっています。
発酵タンクも、モルトとグレーンが分かれています。ステンレスに加え3年前から木桶の発酵槽(右端)も少数導入されたようです。木桶では、木自体に棲みついている乳酸菌が酵母の発酵をさらに複雑な味わいに変えてくれます。
ポットスチルも、形や大きさがそれぞれ異なる3種類が常に稼働。銅製で経年とともに色や質感が変化します。左が稼働中のまだピカピカなポットスチルで、右が操業当初からあるポットスチル。右は現在は稼働していないのですが、展示用として近くで眺めることができました。約25000Lもの仕込みが可能な巨大ポットスチルは、深みある銅色も相まって圧巻のビジュアルです。
写真には収められなかったのですが、熟成庫の見学もさせていただきました。蒸留所には、かなりの数の樽を収納できる高層ラック式と伝統的な熟成スタイル・ダンネージ式の熟成庫が複数あり、全部で約18万樽を保管しているそう。高層ラックではあえて樽の配置換えを行わないことで、樽同士の高層差(=保管時の温度差)によって生まれる味わいの違いをそのままウイスキーづくりに活かしています。
見学したのは、ダンネージ式・No.7の熟成庫。平積みなので下段の樽を取り出すには上段の樽を全て移動する必要があり手間はかかりますが、ラック式と違い様々なサイズの樽保管に対応できるという長所があります。熟成庫内には、職人が樽修理などの作業をするスペースも設けられており、自社製造貫徹に対する本気のスタンスがひしひしと伝わってきました。
熟成庫を見た後は、歴代のウイスキーボトルを鑑賞し蒸留所の歩みに思いを馳せます。趣向が凝らされたデザインの数々に目を奪われました。その年、その時代にしか出会えない味があり、終売するとボトルの希少性はどんどん上昇していく……そんなお酒の宿命を改めて感じ、一期一会な出会いをしっかり味わわねばと思いました。特に右から2番目のボトル「Kirin Seagram Crescent WHISKY SUPREME」の香水瓶のようなビジュアルがお気に入りです。
代表作ともいえる「陸」「富士」の香りをテイスティング。嗅ぎ比べることで両者の特徴がよく分かります。
原酒には味わいにピークがあり、熟成期間が長いほど樽香が強くなりすぎるなど味わいの特性が活かすことが難しくなるため、しっかりと熟成状態を見極める必要があります。蒸留所のウイスキーコンセプトがずれないよう数名のブレンダーだけで行われているブレンディングは、まさに職人技です。
最後は、待ちに待った試飲。中でも「キリンシングルグレーンジャパニーズウイスキー富士 50th Anniversary Edition」の衝撃は忘れられません。これは、蒸留所50周年を祝ってつくられたスペシャル・シングルグレーンウイスキー。1970年代のグレーン原酒から2010年代まで、各年代の原酒が少しずつブレンドされています。
口に含んだ時、その香りの階層の複雑さにビビビッと衝撃が走りました。スムースな口当たりと華やかな香りを樽熟香や芳醇な甘さが下支えしており、まさに50年間の歴史が走馬灯のように鼻腔を貫いてくるのです……!(これ、誇張ではなくって本当なんです…笑)「エ…エステリー…!」と思わず呟きました。
先ほど「味わいにはピークがある」とお話しましたが、何種類もの熟成年数の異なるウイスキーを複雑なバランスの上でブレンドすることで、どの年の原酒の味わいも輝く珠玉のボトルが完成するのだなあと思いました。そして何より、スムースかつ柔らかな味わいの調和が50周年を体現しているという点から、富士御殿場蒸溜所が目指す「クリーンさ」を感じ取ることができたような気がしています。
このボトルは6000本しか製造されていないのですが、蒸留所に行けば試飲ができるようなので気になる方はぜひ足を運んでみてください。
試飲を経て、心なしかみんなもどんどんエールハウスにいるときのような朗らかな笑顔になってきたような気が…? 場が温まったところでいざ、次の目的地・御殿場高原ビールへ!
記・りん